「約束の日って、卒業式に話した?あれは穂波先輩が手紙渡してきたから」

「手紙?そんなの渡してないけど」

「いやもらったって。先輩のお気に入りの小説と一緒に」

渚が言うには卒業式の翌日、同じ学年の女の子が『穂波先輩から預かった』と言って小説を手渡してきたらしい。

そこに挟まれた手紙には『私は渚のことただの後輩としか思っていない。ごめん。もう伝えたから、約束はなかったことにして』と書かれていたとか。


「手紙だけなら信じなかったけど、先輩がいつも読んでた小説に挟まれてたから」

「それ、渚のことを好きだった子があの日の話を聞いて書いたんじゃないかな?あの小説、図書室以外でも読んでたから、私のお気に入りだって知ってる人は他にもいたかも……」

それにしても、随分手の込んだやり方だ。

渚は私の筆跡なんて見る機会もなかっただろうし、気づかなくても無理はない。


「なんだよ……それじゃあ、先輩が俺に対して冷たかったのって」

「約束すっぽかされたと思ってたから」

「そりゃ、そうなるわな」

そう言うと、渚は深いため息をついた。