「私と違ってモテるのにね」

「別にモテるかどうかは関係ないだろ。キスは好きな相手じゃないとしないし」

その言葉のあと、なぜか真剣な目で私を見る渚。

な、何……。

もしかして、好きな相手って。

そんな目で見られるとまた勘違いしてしまいそうになる。


そんな私の気持ちなど露知らず、「先輩はやたらとシチュエーションにこだわりそう」と小馬鹿にしながら笑う渚。

「別にそんなこと。シチュエーションより、誰とするかでしょ……」

「へぇ、じゃあ俺とは?」

渚はそう言うと、私がもたれていた壁に手をついた。

背中には冷たい壁、目の前には熱を帯びた渚の瞳。

「へ、変なこと言わないでよ」

逃げ場のない私は両手で渚の体を押し返す。

けれども、ビクリともしない。

「……俺は先輩とならいいよ」

それって、どういう意味?

さっき、キスは好きな相手としかしないって──。

「だめなら言って。じゃないと本当にするから」

いつもとは違う真剣な表情で、さらに距離を詰めてくる渚。

押し返す私の腕には、もうこれっぽっちも力なんて入っていない。

ど、どうしよう。

渚の整髪料の香りが鼻をかすめ、ぎゅっと目を瞑る。

私、本当に渚と……。