こういうとき、いつも冷静に立ち向かうお母さんは仕事で不在。
2階には渚がいるけど、自分からは声をかけにくい。
だから、私がなんとかするしかない。
とりあえず履いていたスリッパを手に持つ。
けど、これって相当近くまでいかないと逃げられるんじゃ……。
その前に飛んでこない?
なんて、頭の中でぐるぐる考えていると背中をツンと押された。
「ひゃっ」
「穂波ちゃん。スプレー持って来たよ。いつものころに置いてあった」
日向の手にはスプレータイプの殺虫剤。
「ありがとう日向!」
これでなんとか距離を保って戦える。
「穂波ちゃんは日向が守るからね!」
日向はそう言うと私の一歩前に出た。
…………キュン!じゃなくて。
どうしたんだろう。
普段なら、一目散に逃げていくのに。
「渚くんが言ってたの。日向は男の子だから穂波ちゃんを守らなきゃいけないって」
「……そう、なんだ」
いつの間にそんな話をしたのだろう。
どうして日向にそんなことを言ったのだろう。
疑問ばかりが頭に浮かぶが、まずは目の前のヤツと向き合わなければならない。
「ありがとう、日向。でも、殺虫剤は危ないから私がするね」
ヤツを見逃さないよう、必死に目で追いながら呼吸を整える。