「和泉くんが変な勘違いしたらどうするのよ」

そう言いながら、私は渚の手を振り払う。

「変な勘違いって?」

「その……付き合ってるとか」

「別に。いいんじゃね」

「よ、よくない!」


渚にとっては噂のひとつやふたつ大したことないのかもしれない。

だけど、私は渚との関係を面白可笑しく語られるなんてごめんだ。

「何、アイツと付き合いたかった?先輩のこと気に入ってたっぽいし」

「はぁ?誰もそんなこと言ってないでしょ」

今、私がしたいのは私と渚の話であってそこに和泉くんは関係ない。

それなのに、目の前の渚は私の話など真剣に聞く様子もなく、なぜかずっと不機嫌そうだ。

態度が悪いのはいつものことだけど、こうやってイライラしているところはあまり見たことがない。


「てか、そうやって人の世話ばっかり焼いてるから彼氏できないんですよ。穂波先輩は」

「それは今、関係ないでしょ。それに、渚だって彼女いないじゃん」

「俺は先輩と違ってモテるんで」

彼氏ができない私と、彼女を作らない渚とでは雲泥の差がある。

そんなこと、言われなくてもわかってる。

「……それで?結局何が言いたいの。お節介は程々にしろって話?それならもう十分わかったから」

「何もわかってねぇよ、穂波先輩は」

渚は最後にそう言い残すと、1人教室の方へと歩き出した。

「何なのよ、」

わかるわけないじゃない。

だって、どれが渚の本音かなんて私にはわからないんだから。