「ご、ごめん、すずちゃん。大きな声出して。大丈夫?何か言われた?」

「大丈夫だよ。やっぱり知り合い?突然話しかけられたからびっくりしちゃったけど、いい子だったよ」

「騙されちゃだめだよ、すずちゃん。アイツは常に女の子との噂が絶えないし、自意識過剰。態度だってでかいし、それに」

「穂波先輩、俺のことそんな風に思ってたんだ」

背後から聞こえてきた声に思わず言葉を呑む。

前から歩いてきた女子生徒は私の後ろにいる人物に視線をやると「本物だ」なんて、まるで芸能人でも見たかのような感想を述べ頬を赤く染めた。

「朝からうるさい人がいるなーと思ったら穂波先輩じゃん」

私が口を開く前に隣へと移動してきた九条渚。

この男には先輩相手に“敬語”を使うという概念がないのだろうか。

ああ、そういえばなかったな昔から。


初対面のときでさえ『それ、何読んでんの?』って、タメ口だった。

「先輩、無視?」

「アンタがひっきりなしに喋るからでしょ」


新学期が始まってから2週間。
ばったりと顔を合わせないように、私がどれだけ努力をしてきたか。

この男はそれを知らない。