翌朝、いつもより小さな音で設定したアラームが控えめにピピピピッと鳴り響く。

なんでこんな小さな音?と一瞬不思議に思ったが、それは昨夜自分で変更したものだった。

壁が薄いって大変だ。

……私が、さっさと伝えればいいことなんだけど。


机に置いてある鏡に映ったのは重い瞼に血走った目、それに爆発でもしたかのような頭。

そういえば昨日、ドライヤーも適当だった。

普段なら起きて直行洗面所に向かうが、今日は手櫛で髪を整える。

だが、途中で『なんの為に?』そんな言葉が頭に浮かんで、そのまま部屋から出た。

そんなタイミングよく会わないでしょ。

なんて思った矢先、隣から聞こえてきた声。

「あ、先輩おはよ」


隣の部屋から出てきたのは今、一番会いたくなかった男だ。

「……お……はよ」

「目血走ってるけど、寝不足?」


だっ、誰のせいだと……!


私とは違い、九条渚はえらくスッキリした顔をしている。

イケメンって得だなという話ではなく、十分睡眠を取った健康的な顔。

眠れねぇとか言ってたくせに。

「漫画の読みすぎじゃね?」

「よく覚えてたね、私が漫画好きなこと」

「……や、女は大抵好きだろ」


はいはい、“女”ね。

私の趣味なんていちいち覚えてる訳ないか。