「今日、久々に話せただけでやばかったのに」
んんん?
そ、それはどういう意味?
「目合っただけで嬉しいとか、穂波先輩は気づいてないんだろうな」
う……れしい?
私と目が合っただけで。あの九条渚が?
隣にいる九条渚はまるで普段とは別人のようだ。
「これからは毎日、先輩の顔見れんのか」
ちょ、まっ、それ以上喋んないで……。
「隣に穂波先輩がいると思ったら心臓痛ぇ」
次々と出てくる言葉に顔が熱を持ち始める。
こ、こんな話を聞いたあとに“実は壁が薄かったのー!”なんて言えない。
同居が終わるまで、知らないふりをしてやり過ごすのが一番だ。
「中学のときよりも、さらに可愛くなってたし」
「……ッ………(声にならない声)」
ほ、本当にやり過ごせるの……私?
九条渚は私にとってただの生意気な後輩。
やっと、そう思えるようになってきたのに。
……どうやら、そう簡単にはいかないようです。