「何か……まだ言いたいことがあって呼んだか?」

 モモの沈黙に戸惑うような凪徒の問いかけ。

「いいえ」

 少女はやっと鮮明になった視界を少々上げて、真っ直ぐに凪徒を見つめた。

「じゃ、何だ?」

 カタン……モモは答えずに椅子を引いて立ち上がった。今度は凪徒が見上げて黙る。

 ──モモ?

 右手がゆっくりと近付いてきて、自分の顔の少し上で止まった。そして一言。



「先輩、お仕置きです。おでこ出してください」



「──えっ?」

 驚きながら寄り目で見つけたモモの手先は、デコピン発射前の態勢に整えられていた。

「ちょ、ちょっと待て! 何で俺がお仕置きされるんだよっ!!」

 慌てて押さえようと伸ばした手から、モモの手は一度逃げ、逆に凪徒の右手首がモモの左手で押さえられる。

 それでも凪徒はもう片方の手で何とかデコピン準備中の手首を(つか)んだが、モモの対抗する力は意外に強く再びその射程圏内に戻ってきた。

「みんなに沢山心配掛けたじゃないですか! あたしが代表して先輩にお仕置きします!!」

「い、いや……あれは不可抗力だろ!? サーカスを解体させるって脅されたんだぞ!」

「それは先輩が黙っていなくなってから分かった話じゃないですか! 往生際が悪いですよ~男だったら覚悟決めてくださいっ!」