その四日の間、秀成は興行中以外常に凪徒の声に耳を澄ました。

 しかし(ほとん)どは周囲の喧騒(けんそう)と、時々外食を終えて立ち去る際の「ごちそうさん」という言葉のみであった。

 どうも凪徒は実家へ戻っていないらしい──それが暮と秀成のとりあえずの見解だった。

「まったく……出てったんだから、さっさと帰れっつうのっ!」

 夕食前の音響照明ブースにて、秀成と共に向こうの音声に耳を傾けながら、暮は(いら)立ちを隠せずぼやきを吐き出した。

「そんなにお父さんに会いたくないんですかね……あ、いや」

 更にブツブツ文句を続ける暮の顔前に、秀成は突然「しーっ」と掌を向けて制した。

『はい』

 くぐもった中年女性のような声。

『……凪徒、だけど』

 それに対する凪徒の声は、どこか遠慮がちだった。