しばらくモモは動けずにいたが、目の前の信号が何度変わっても歩き出さない少女を心配して、近くの店主が呼びかけた。

 モモはハッと我に返り、ぎこちない笑顔を取り(つくろ)って青に変わった横断歩道を足早に渡り去る。

 けれどその後のスピードは徐々に緩み、トボトボとテントを目指した。

 気が付いた時には既にサーカスの敷地を歩いていた。

 休演日なので皆それぞれ出掛けているのか、どのコンテナハウスも閑散としている。

 それでも左側の団長室を通り過ぎようとしたその時、ガラッと引き戸がスライドし、現れたのは暮だった。

「モモ……どうした? どっか行ってたのか?」

 いつになく猫背で表情のないモモの様子を心配して尋ねる。

 が、すぐさま気付き、

「凪徒がいなくなったの、もう知ってるのか?」

 その問いかけにわなわなと崩れていく少女の面持ちを見て、暮は思わずモモの腕を(つか)んだ。

「やっぱり……帰ってきて……ないんです、ね……」

 もう見せられる顔じゃない、というように(うつむ)いてしまう。

 くぐもった声で何とか答えたが、何をどこから話せば良いのか、混沌としたモモには分からなくなっていた。