その時だ。
苺美が初めて “その音”を聞いた。
苺美はビールを飲みながら、カーテン、窓を開ける。
冷たい空気が吹き込む。
その音は、左斜め下【101号室】から聞こえて来る。
このアパートは1階が右から【101号室】
2階は左から【201号室】と並んでいるのだ。

「何この音…マジで?」と苺美が窓とカーテンを閉め、つまみのチーズを手に取る。
「マジでって何が?」
普通ではないらしい。
雨哥は特に気にならない。
「そりゃ、たまにだから良いかも知れないけど、ひどくない?」
苺美が音を気にしながら言う。
「まぁね。でも…たまにだし…」
気にならない。
アンタよりマシです。
会話を広げる気もないのだ。
苺美がこう言うのはきっと当たり前なのだろう。
それでも、この音よりも苺美の存在の方が雨哥にとっては「マジで?」なのだ。
それくらい、苺美の事を良く思っていない。
思えない。
いつもいつも…邪魔なのだ。
この音の方がまだ…。