「私が行けなくなったって知った時、帰ろうって思ったの?」
雨哥の問いに「うん。雨哥へのサプライズで、本当は苺美ちゃんが呼び出して雨哥がきたら俺と2人にするって言う流れだったんだ」と琉羽は答えた。
いつもの普通の会話と同じトーン、喋り方、表情だった。変わらない。
「でも仕事って来て、残念だねって話になったんだけど、チケットが勿体無いって苺美ちゃんに言われて…。雨哥の観たがってた映画なのに…俺、観ちゃってごめんね」
琉羽は違う部分の謝罪をする。
苺美の存在はそんな程度なのだろうか…。

「ううん。そんなサプライズしてくれてたのに…私こそ…」
雨哥は下を向いた。
「ごめんね」が言えなかった。
だって…すごく悩んだ。不安だった。
琉羽に対して「ごめんね」は思うけれど言葉で、声に出して言う事が出来ず下を向いた。
「見ちゃって、不安だったんでしょ?ごめんね。黙ってて。雨哥、こっち見て」
琉羽の声に素直に顔を上げる。
「大丈夫だよ。俺は、雨哥だけだから」と琉羽は雨哥に誓いのキスをした。

『ごめんね』は心で。
「ありがとう。私も…琉羽だけだよ…」と雨哥は笑った。
琉羽の大好きな雨哥の笑顔。
雨哥が雨哥でいられる、琉羽に包まれる時間。
全部、全部、琉羽は私だけ…。
私も琉羽にだけ…。

ただそれだけなのに…。