「雨哥」
優しく呼ばれ、雨哥が琉羽を見る。
優しい、愛おしい、大好きな琉羽。
そこには “いつもの琉羽” がいてくれた。
それなのに、馬鹿になりそうなくらい不安で怖くて仕方ない。
「大丈夫だよ」
その声に雨哥は頷いた。
頷きたかった。
頷くしかないじゃん。
「雨哥」
次にその名前を呼んだのはタキだった。
雨哥がタキを見ると同時に、琉羽がタキへと視線を移す。
琉羽から渡された紙をテーブルの上に置き、タキが雨哥の横へ来る。
琉羽はただその動きを見ていた。
全て分かっている、知っている動きだから。
「タキさん」と不安な声で雨哥が呼ぶ。
不安な目で見て来る雨哥の腕を強く掴み、タキがその体を引き上げる。
立ち上がる雨哥を、琉羽は支えた。
けれど、それ意外に何の動きも起こさない。
分かっているから。
これから起こる全ては自分の決めた事だから。