「これで終わりだ」とタキが少し安心したように告げた。終わったんだ。
どうしようか…と立っている雨哥の術衣や合羽を脱ぐように指示をしてからタキが「一緒に来て」と雨哥を呼んだ。
【102号室-作業室-】の部屋を出て、鉄の扉を閉める。
そして【101号室】からも出た。
どこに行くのだろう…。
タキは手に何かを握って歩いて行く。
そして【104号室】の前で足を止め、そのドアをノックした。
「大家さん…」と雨哥はドアを見つめる。
前にもタキは大家と話していたな…。
鍵が開き、ドアが開いた、
タキと雨哥の姿に、大家は拍子抜けをした表情を見せた。
ですよね。
「今回からこの子も」とタキが言う。
大家はまだ変な表情のまま頷いている。
分かったようだ。
雨哥も “仲間” になったのだと。
玄関に1匹、犬がやって来た。
契約の時、大家の足元で寝ていた犬だ。
やっぱり何犬だか分からない。
タキが手の中から何かを犬の前に落とす。
何か、どこかの肉。苺美のどこか。
犬はそれに鼻を近付け匂いを確かめている。
そして、タキと大家、次に雨哥をチラッと見ると、そのまま部屋へと入って行ってしまった.
「犬も食わないってよ」とタキは鼻で笑い、言い捨てた。
苺美…アンタって…雨哥も少し笑った。
地面の肉を拾い、何の言葉も交わさず「帰るよ」とタキが歩き出す。
大家に頭を下げ、雨哥もタキの後ろを歩く。
背中でドアが閉まるのを感じる。
「持って帰るモノはコレだけか?部屋に何か残ってたら持って来なさい」
タキがホルマリンの容器を雨哥に手渡す。
それを最後に本当に “今日” が終わった。
長かった今日。
「じゃあ」と交わし、雨哥は【201号室】へと戻る。
「呼んだら来て手伝って」とタキは言ってくれた。
“仲間” にしてくれた。
雨哥を送り出す時のタキの表情はいつもの冷たい表情に戻っていた。
それがタキなのだろう。
雨哥は【201号室】へ帰った。
“いつも” に戻る。
そのドアを閉め “始まりの初の秒” を終わらせた。
気付かないまま…。
最期の最後に残した苺美の “証” …。
そのまま “いつも” “普通” に戻って行く。
苺美だけが消えた。
「バイバイ苺美」の声を “証” だけが受け取った。
“バイバイ”