炭酸水がやっと透明だと思えた。
「タキさん」とタキを見ると「飲んでごらん」とタキが教える。
少し胃の中に入れる。少し痛い。熱い。
けれど拒絶はしなかった。やっと自分の中身に戻った気がした。やっと…。
大丈夫…と呼吸を何度か試す。
大丈夫。それが良い事なのか分からないが、大丈夫だった。大丈夫にしたのかもしれないけど。とにかく大丈夫。

「ちゃんと覚えてる?」
タキが優しく感じた。
いや、優しかったんだと思う。
「覚え…てる?何を?」と雨哥は首を傾ける。
何?どれ?多分、全部忘れない。
忘れないようにしていた。
タキはまだ赤く溢れ流れる液を、バケツのような容器に溜めながら苺美の体を確かめるように見て行く。
「この子の味…覚えてる?」とタキは手を動かしながら言った。
苺美の味…カップの赤を見た。
口の中にあの味、苺美の味がジワッと戻ろうとする。
でも、それはもう想像の味。
記憶の味で現実にある訳ではない。
脳が壊れ、記憶がバグを起こして消えれば存在しないモノなのだ。
だから、気分が悪くなるだけで、吐くまでには至らない。
“ただの記憶” に置き換えていた。