何かが壊れた。ううん違う。壊したのか。壊れた方がマシ。もういらない。壊…。
右手にゆっくり、苺美の体温と同じ温かさの何かが伝わる。
だって…止めてくれなかったんだもん…。
それはゆっくりと伝い、ゆっくりその温度をなくして行く。
目の前の苺美の目から涙の光が消え、苺美は持っていた雨哥の腕を落とすように放した。
その手がそのまま床へと落ちる。
いつもと違う苺美の姿。
苺美の胸に、いつも仕事で使っている “万能鋏” が刺さっている。
刺した…のか…。仕事で使う鋏を苺美に。

その鋏を握る手に苺美の温度の赤(血)がゆっくりと伝う。
ゆっくり冷めて行く。ベタベタ…。

「う…た…」
小さく優しく声が呼んだ。
ずっと求めてた呼び方…。
そうだよ…。そうでいて欲しかった。
その声に雨哥は鋏から手を放した。
『どうしよう』現実が急速に押し寄せる。