雨哥の手に鈍い感触が伝う。何を起こしたの?
料理をする時、こんな感じあったっけ?
切った事はある。刺した事はないからなぁ。
でもきっと、突き刺したら、こんな感じなのかな?
目の前の顔が苦痛に歪み「なん…雨…哥…」と震えを伝えて来る。
あれ?怖い。やだ。嫌。イヤ。何で?何でこんな事…。ナンデ?

苺美の体も声も揺れる。
「大…丈…夫…だから…ね」
震えが増す声で、歪んだ苺美の笑顔。
笑顔なんだ。
こんな時も笑顔の苺美。嘘つきな苺美。

「う…」
「やめて」
刺さっている “其れ” を抜く。
「う…好き…だ…よ」伝えたいんだ。
「やめてよ!」
止めてくれなかった。黙ってくれないから。
その鼓動に突き刺した。
止まってしまえ。止(や)めて。止まれ。
アンタなんか。お前なんか。苺美なんか。
最後に…深く突き立てた。
やっと静かに…。

全部が、止まったように感じる。
でも、雨哥の震えは残された。
雨哥の時間は止まらない。
そして動く。次へと進む。