落ち着いて考えればわかることなのに、夕方に見たふたりの姿が脳裏に浮かぶたび、冷静さが失われていく。

もしかしたら、あの後池田さんと一緒に買いに行ったりしたの? 私との約束をキャンセルしたのに?

「いらない」

思いの外、平坦で低い声が出た。

頭の奥で“ダメだ”と警鐘が鳴る。

このもやもやとした感情は自分で処理するものであって、怜士にぶつけていいものではないし、勝手な想像で非難するのも間違ってる。

それなのに胸の奥からこみ上げてくる暗い感情を制御できない。

「今日、本社の近くまで行ったの。送ってくれてたメッセージ見てなくて」
「そうか。連絡がギリギリになって悪かった」

焦ったように見える怜士の瞳に不安が煽られた。

見られたらまずい場面でもあったのかと、勘繰りたくなってしまう。

「池田さんと一緒に歩いてた」
「あぁ。残業が確定して、一緒に残るメンバーの夕飯をまとめて買いに行ったんだ。彼女が手伝うと言ってくれたから、近くのコンビニに」
「焦って言い訳しなくてもいいよ。最近電話もよくかかってくるし、仲がいいっていうのは嫌って程わかってるから」