『怜士くんの奥さん?』

『俺と同期入社で、今回のプロジェクトにも入ってもらってる』

脳裏に過去の会話がよぎり、ふたりの並んで歩く姿に目の前が真っ暗になる。

どうして私との約束を破って、あの人とふたりで歩いているの?

周囲の人が怪訝な顔で見ているもの構わずに、私は愕然として立ち尽くしたまま。

ずっと心の奥にしこりのように残っていたざらりとした感情が、ドロドロと堰を切って溢れ出してくる。

ううん、大丈夫。連絡してくれたように、仕事に決まってる。

同じチームで働いているんだから、一緒にコンビニに行くことくらい普通なはず。

どれだけ冷静になろうと頭を振っても、脳裏には学生時代の苦い思い出が蘇ってくる。

怜士の腕に自身の腕を絡め、隣に立ちながら私に勝ち誇った視線を投げかけてくる彼女たち。

『親が決めただけの政略結婚なんでしょ?』
『怜士くんが可哀想』

過ぎた過去のことなのに、あの池田という女性の存在が、私の塞がりつつあった傷をこじ開ける。