「『いってらっしゃい』ナツメ」

「っ」


すぐ耳元で聞こえる薄気味悪い声に、ぞわりと鳥肌がたった。
幼い頃にかけてもらっていたのとはまるでかけ離れている。


「皐月のいる寮は、外出許可出し過ぎなんじゃないか」


脱衣所までついて来るのは勘弁してくれ。
いちいち俺の嫌がることを楽しそうにする神経がわからない。


「バァーカ。そんなの、オレが『出来のいい従弟と一緒に勉強する』って言えばOKになるんだよ」

「っ、」


前髪をつかまれ、強く引き寄せられる。
皐月は、微塵にも思っていないことは特に強調して話す癖があるということに最近気付いた。
気付くほど一緒にいるなんて、どうかしている。

退屈しきった顔に、何かを思いついたように冷ややかで歪んだ笑みを口元に浮かべる皐月。


「また傷だらけにして、いやーな噂流してやるのもいいな」


ありもしない噂が自分の周りで流れているのは知っていた。

犬を助ければ「動物虐待をしていた」
顔に傷がつけば「ケンカをしていた」
落とし物を交番に届ければ「警察の世話になっていた」


全く知らない人に、何もしていないのに何かをしたと言われ後ろ指を差される日々。

それは、こっちに引っ越してきてから少しずつ減ったと思っていたけれど。


まさか。