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「おかえりー。遅かったじゃーん」

「……」


……返して欲しい。
「時は金なり」とは本当によく言ったものだ。


疲労の原因のほとんどを占める対象に、初めて憎悪を感じる。

奏雨の姿じゃないだけまだマシだが、勝手に人の家に入るとは。
きちんと施錠もしているし、朝も確認した。
こいつがうろつくようになったから余計に注意していた。

ぞくり。

冷たい汗が背中を流れる。


「……なんでいるの」

「お前ん家、マジで何もねーのな。カップ麺ばっかじゃん。好きだから別にいーけど」

「どうやって入ったわけ」

「ちなオレ明日休みだから野菜炒めでも作ってやろーか? あは、野菜買ってこなきゃ。オレってば主婦~」

「そんなこと聞いてないし、いらない」

「あ、風呂湧かしておいたぜ」

「……」


成り立たない会話。
ここで俺が怒りに身を任せてつかみかかることができたらどんなに楽だったろうか。

俺には、つかみかかるどころか言葉で対向する体力なんて今残っていない。
自分の体に何が起きているのかなんて分かってる。

この男はそんなことも全部見透かしているのだ。
だからわざとらしく風呂のことを言ってくる。

皐月相手に細かいことを気にしている方が無駄だということも知っている。
せっかく用意していただいたのだからと、無言で脱衣所に向かおうとした時。