「雪杜くん」


どきりとした。

名前を呼ばれたからというよりも、手が。

自分のよりも小さくてあたたかい花暖先輩の手が、きゅっと俺の手を握ってきたからだ。


「私たちも、帰ろう?」


この幸せそうな笑顔を見る度に自分を殴りたくなる。
少しは慣れてきたと思っていたのに、少し気を緩めると一気に余裕がなくなる自分が情けない。

少し触れるだけで十分なのに。
そしてそれは、先輩も一緒のはずなのに。

俺ばかり先走ってどうする。

先輩が泊まりに来た日のことを思い出して、深いため息を吐いた。

それこそ、汚い感情も一緒に吐き出すように。

肺を空っぽにする勢いで、吐き続けた。


「……ご、ごめんね? 手、嫌だった……?」


誤解した花暖先輩が、申し訳なさそうに手を離すから。


「っ、違」


反射的にその手を強く握り返した。
指だって絡める。

簡単に離れてしまわないで。


「…………」


顔を真っ赤にしながら、大きな桃色の瞳が俺を見つめる。

ごめん、おかしいのは自分でも分かってるから、そんなふうに見ないで欲しい。