驚いて何も言えない俺を置いて、周りがどんどん帰り支度を始めてしまう。

急いで俺も帰る準備をして、みんなで図書室を出た。


「奏雨、今日はなんで図書室来たんだよ?」

「べ、別に、奈冷がいるような気がして来てみただけよ!!」

「ねえ奏雨、俺の作品になるつもりない?」

「はあ!? あ、あなた、何言ってるのか全然わからないんだけど!?」

「…………」


頬をつねればまともな風景に変わるだろうか。

あの奏雨が、こんなにもわかりやすく照れている。

少しずつ花暖先輩含めみんなと溶け込むことができたらと、さっきまで思っていた。

なのに、なんだ。
奏雨がやわらかくなったのか、タマキ先輩のコミュニケーション能力が高すぎるのか。
いや、後者だ。間違いなく後者だ。


「……そうだった」


小さく、誰にも聞き取られないくらい小さく呟かれる。
今の奏雨は、1年前の自分と同じだ。

いつだってひとりでよかったと思っていた俺の中に、まっすぐ飛び込んできてひどく戸惑った。

隣を見る。

小池先輩と一緒に、2人で頬を赤らめながらきゃあきゃあ何かを話していた。


「……雪杜くん?」


何がこの人をそうさせたのかなんてわからないけれど。

何かを期待したり、何かを決めつけたりするんじゃなくて
本当にただ傍にいて、いつの間にか俺の中で色濃く鮮やかに咲いていた。