瞬間、普段意識したことのない香りが強く鼻を刺激した。
それもそうだ、店内はそれこそお花で敷き詰められている。

とりあえずどんなお花があるのか見て回ろう。
人ひとり通るのがやっとのスペースを、お花に体が当たらないように慎重に進んでいく。


「すごい……本当に迷っちゃうなあ」


壁にまでお花が綺麗に陳列されている。
レジ横なんて花束やアレンジメントで綺麗に飾られていた。


「……あ」


お花に意識が完全に持っていかれてしまっていて、ここへ来て店員さんの存在にやっと気付いた。

レジ横で黙々と花を束ねている……男の人だ。

店員さんも私の存在に気づいたのか、視線をこちらに向けると不思議そうに首を傾げた。


「およ」

「?」


……「およ」?

店員さんは花を束ねる手を止めて立ち上がると、ゆっくり私の方へ近づいてきた。

最近私が出会う人達はみんなキレイな顔立ちをしていて自信喪失しかける。
癖のない黒い髪は自然に流されていて、ちらりと見える襟足には青のインナーカラーが入っていた。

少し長い前髪の間から色素薄めの瞳が私を真っ直ぐ見つめてくる。


「あ、あの私……大事な人に、その」

「……くふ」


そして、零れるように笑った。


「任せるなり」

「……」


……「なり」?