「2つ、ナツメが嫌いだから」


上から降り続ける声は落ち着いているはずなのに、さっきからズキンズキンと響く頭痛が余計に刺激されて目をぎゅっと閉じた。


「3つ」


同じく膝をついた皐月に、無理矢理顔を上げられる。
いっそさっきと同じように髪をつかんでくれたらよかった。
その方が頭痛が紛れたのに。


「……ナーイショ♪」


……ああ、頭が痛い。
素数もどこまで数えたか忘れてしまった。


「ナツメの彼女、なんで家に呼ばないんだよ? オレのことなんて気にしなくていーのに。そうか、カナメの格好してるオレと一緒にいられるとこなんて見られたくないよな? 誤解招くもんな?」


俺の頭痛に気付いたのか、耳元でわざと裏声を出して脳を刺激してくる。
まずい、いよいよ寒気もしてきた。


「安心しろってナツメ。しばらくカナメの格好はやめるからさ、な? ナツメ。まーでも、うっかりカナメになりきっちゃう時あるかもだけど、許してねナツメ」


うざったいくらいに名前を呼ばれて、意識もなかなか手放せない。
このまま倒れることができたらどんなに楽だろう。


「そーいやお前、医者にならないとかマジで言ってんの? なめてんの?」

「……医者以外にも、職業なんてたくさんあるでしょ」

「カノチャンって、お前がそこまでしてやるほどの女なわけ? ねえナツメ、カノチャンの好きなとこ教えてよ、100コ」


ああもう。
なんでもいいから横にならせてくれ。
「うるさい」と言って抵抗したいのに、それすらも億劫で。
もうどうでも良くなって今度こそ意識を手放そうと目を閉じる。


「ナツメ、おーいナツメ、起きろって」

「…………」


皐月という男は、俺の嫌がることを本当によく知っている。