あの出会いから1ヶ月がすぎる頃、俺は教室で外を眺める日々が続いていた。授業とかは何となく受けて、友達作りも積極的になれなかった。周りのみんなからはなんて思われてるのか知らないけど、たまに陰で言ってるのを知っていた。


教室の窓から見える空は青く澄んでいて気持ち良いものだった 。雲1つもなく流れていく時間を大切にしたいと強く思っている。俺はロマンチストでは無い。この空を眺めるだけで詩が降りてくるような詩人でもない。単なる平凡な庶民。まあこういう時間が俺の濁りのある心を浄化してくれるから好きなんだ。


そんな時だ。あの声がやってきたのは。
『龍斗くん!!何見てるの?』

『空を見上げているだけだ』

『ふーん。あのさ一緒に話さない?』

『なんで?』

『なんでって、龍斗くんが気になるんだもん』

気になるだって!?そんなことあるわけない。だってみんな俺の事をコソコソと陰口たたいているんだぜ。

『いやいや、気になるって言われても困る』

『気になるって私と同じ匂いがするんだよね』

同じ匂いって俺は姫華と同類ってか!?有り得ね。
姫華とは俺と違う部類で生きているんだよ。

姫華はお転婆で陽気な女の子。髪型はショートヘアがとても似合う。いつもクラスの中心になっていて、誰からも愛されるような女の子。俺とは天と地ほどの差があるんだ。


『姫華ー来てー』
ほら、人気者を呼ぶ声がするんだ。

『はーい、行くよ。じゃあまた声かけるね』

なんだったんだ。この時間は。このモヤモヤした気持ちのまま再び青空を見上げる。


ガラッとドアが開き
『冠城!終礼後職員室に来い』と担任が言ってきた。するとみんながまた陰口をたたく。

終礼後、職員室に向かう。理由は分かっている。どうせまた言われるんだろう。

職員室に入ると担任の日下辺《くさかべ先生》が呆れた声で
『冠城よ。いつになったら真面目になってくれるんだ』

『はーすいません。』

『冠城は勉強しなくてもいいかもしれんが、周りの生徒たちの苦情が入っているんだ』

『まー頑張りますよ』

『この高校はな、分かってると思うが進学校で生徒1人1人自分の人生のために頑張っているんだ。冠城1人がみ生徒たちの邪魔になってはいけん』

邪魔、、ね、、、くそ笑える、、、、

『分かりました。では俺の苦情を言ってきた生徒に言ってください。そんなことを言える時間があったら沢山勉強して人生を叶えて下さいと』

それだけ伝えて俺は職員室を出る。


くだらない苦情を聞くために俺の時間が割かれたと感じた。苦痛の念だけが強く残った。


俺は教室に戻るとクラスのみんなは誰も居なかった。
そりゃそうだよな。
俺を待ってくれる人なんてこの世には居ない。


自分のスクールバッグを肩に掛けて、そそくさと学校を後にする。


次の日学校に行くとまたあの声がやってくる。

『龍斗くん!!おはよう!!!』

『なんで、俺に声かけるの?』

『話したいからじゃダメ?』

『まーダメだね。』

『えーなんで?』

『俺とは関わらない方がいいと思うよ。』

『それは出来ないね!』
『だって龍斗くんと仲良くなりたいさ!!』

『俺が迷惑してんだよ!!』って言うつもりなかったのに出た言葉がこれだった。

『え、そうなの?あ、それはごめんね。』

姫華は俺にそんなこと言われると思わなかったみたいな表情をして、振り絞るように

『なら、もう話さないから。』

そう言うと姫華は教室をものすごい速さで出ていった。

すると、他の生徒から
『おい、そんなこと言うことはないだろ!』
『まじ、最低!』
『冠城!まじでお前ここに来るなよ!』
と怒りと憎しみに満ちた罵詈雑言の嵐になっていた。

『じゃあ帰るわ。』と荒れ模様な口調で俺も教室から出ていく。


俺は全然悪くない。あいつが必要以上に絡んでくるのが悪いんだ。と自分の心に言い聞かせて帰路に立つ。
家に帰っても親は居ない。早く帰っても誰も怒る人居ない。そのまま自分の部屋に入って携帯をいじる。でも、すぐにつまらなくなる。勉強もする気が今日は起きない。『じゃあ外に出るか。』と思い、制服から目立たない私服に着替えて外に出る。


『あーやっぱり木ノ下は都会やね』
俺は木ノ下市でゲーセンや本屋など巡り回って時間を潰す。その時、
『よっ!冠城じゃないか!』

この声の主は
『あ、野吉か。』

そう、、こいつは 野吉瑠斗《のよし るいと》だ。
根っからの悪ガキだ。
俺はこいつがめっちゃ嫌い。何かとウザイ。もう関わるとは思わなかった。めっちゃ悔しい。
色んな感情が俺の脳内を駆け巡ってなんとも言えない顔になってしまう。


『冠城がこんな時間に何してんだよ?!』

『いや、別にいいだろ。』

『つれねえな、俺と遊ぼうぜ』

『それは、全力で拒否させてもらう。俺はこれから帰るから。』

『ちぇっ、お前まじでつまらんな。』


『お前つまらんな』って言葉は俺の心に深く刺さった。


俺は何も返す言葉がなく野吉を後にする。
つまらんか。いつも言われてきたな。中学の同級生からからかわれたり、白い目で見られたり、ほとんど話す相手が居なくてずっと孤独に生きてきた。


その中心に居たのがあの野吉だ。
俺はあいつになにかした訳でもなく、嫌なことを言った訳でもない。
ただつまらないから。だから標的にされていた。
それによってかたってクラス中がいじめをしてきた。俺は、何度も親や先生に訴えてきたが、『まあ直に無くなる』だとか『あんたが無愛想だからだよ』だとか『まあ注意はしておくよ』と全く相手にされない。俺は精神的にも身体的にも限界を迎えていた。そして、人間不信になり、自殺未遂を繰り返していた。そんな時、唯一親身になってくれたのがある女の子がいた。

名前は橋戸桃菜《はしど もな》だった。
桃菜はいじめられている俺にも気さくに話しかけてくれる唯一の同級生。それも相まって野吉たちがいじめてくるのもあるんだと思っている。


『冠城くん。大丈夫?』

『あ、あー大丈夫だよ。』

『大丈夫じゃなそうだけど』

『いや、橋戸さんには関係ないよ』

『でも、心配だし』

『橋戸さんも俺の事を貶めたりするんだろうな』

『私はそんなことしないよ』

『俺は、もう誰も信じられない。信じたくない。関わると橋戸さんにも標的になるよ?』

『あーやっぱりそう思う?』

『え?』

『私もいじめられているんだよ。』

『そんなことないでしょ?』

『特に女子からね』

『あ、そうなんだ。辛くないの?』

『辛いよ?今すぐでも死にたいもん』

『同じだ』

『え?冠城くんも?』

『俺は毎日自殺のことを考えている』

『冠城くんは生きた方がいいよ』
『私は生きる価値ないから』

『そんなことないよ。俺もそうだし。』

『冠城くんは頭がいいし、世の中の役に立つ人だから』

俺は橋戸さんに返す言葉が見つからなかった。役に立つ人って初めて言われたから。単純に嬉しかった。


でも、そんなある時
橋戸さんは自殺した。俺は絶望感と憎悪感に苛まれた。原因は俺と話しているのをクラスの同級生が見てからかってきたことだった。
俺はその同級生をめちゃくちゃ殴った。それで退学処分となった。あまりにも理不尽すぎた。
俺は逃げるように引きこもるようになった。幸いにも高校受験は既に終わっていた。推薦で行けることになっていたからだ。

そんなことがあったから、野吉とは会いたくなかった。
嫌なことが続くのは精神的にキツかった。


そして、俺はこの日から学校行かなくなった。