「春原さん、すごかった! 今日のヒーローじゃん!」
「いきなりよく歌えたね。あんなん無理だわ。真似できん」

 帰り道、クラスの子たちが褒めてくれて、照れ臭くなる。
 自分でも、本番でソロパートを歌ったことが、まだ信じられない。

「急に声出なくなって、終わったと思った。春原さん、ほんとにありがとう」

 眞柴さんからもお礼を言われて、あわてて首を横に振る。

「みんなと歌えて、よかったです。今日、参加できて、ほんとに嬉しい」
「うんうん、このクラス最高だよ! 先生は感動している!」
「ヤダァ〜、みうらっち泣いてるのー? こっちまでもらい泣きしちゃうから!」

 いつの間にか、クラスの子たちに囲まれて、私は輪の中心を歩いていた。その姿を見た真木さんが、「やるじゃん」と口を動かす。


 宮凪くん、見てくれていますか?
 人見知りで臆病な春原蛍は、あなたと出会って変わりました。
 誰かと関わる大変さ、誰かを想う喜びを知りました。

 でも、やっぱり心にはぽっかり穴が空いていて、とてつもなく寂しくなります。宮凪くんに会いたくなって、ふいに涙が出ます。

 もっと言葉にしていたら……と、何度もあの日々を思い返しています。


 宮凪くんへの想いを引き出しに秘めたまま、白い景色が過ぎ去って、私は中学を卒業した。