急いで支度をして、お母さんの車へ乗り込む。
 集合時間より少し遅れて会場へ到着したけど、三浦先生は「よく来た!」と迎えてくれた。

 この地域周辺にある、四つの中学の合唱コンクールが始まった。
 トップバッターの私たちは、みんな緊張しているように見える。思いのほか、会場が広くて客席は近い。

 壇上へ上がったとき、私の前の子が転んでしまった。そのこともあって、一気に場の空気がこわばったのだ。声が出ないかもしれない。

 ピアノの伴奏が始まり、みんなが歌い出す。

 〜僕らは旅の途中 昨日の出会いを胸に 輝く明日へ〜

 小さな声を出しながら、ふと視線を動かす。指揮者の斜め後ろに、いたの。

 宮凪くんが──。

 天王中の生徒が、宮凪くんの写真を持っている。
 じわりと目頭が熱くなって、いろんなことを思い出す。


『したいことも欲しいものも、その時叶えておかないと、あとで後悔するかもしれないだろ』

『蛍が見てる世界を、俺も経験してみたいなーって』

『蛍が来てくれて、俺の居場所はここじゃねぇって吹っ切れた』

『蛍だけ、特別な』


《死にたくない》


『あんなすげぇ音楽とステージで歌えるとか、夢にも思わなかった』

『本物の、蛍も……見よう。約束、たくさん、あった方が、頑張れる……気がする』


《ほたる ガンバレ》