『こんなにキレイなのに。どうして嫌われてるの?』
『これ、病気なんだよ。体が光るのは普通じゃない。幼稚園のみんなも言ってる』

 水をすくう男の子の手が、星屑を散りばめたように光を放っている。

『いいか、蛍。大きくなって、もし仲間と逸れた海ホタルを見つけたら、手を差し伸べてやれ。こうして優しく救うんだ』

 その手を覆うように、お祖父ちゃんが私の手を重ねた。まるで蛍を持っているみたいに見える。

『すごーい! キラキラ』
『僕、すごいの?』
『うん、特殊能力みたいだね』
『特殊……能力……』

『これでもう大丈夫。君と蛍は、もう立派な友達だ』

 隣にいる母親は、声を震わせて泣いている。


 ──思い出した。
 あれは海ホタルではなく、人の光。宮凪くんの蛍だったんだ。

 暗い空の下で、青く光る手をそっと掬う。心なしか、骨張った指が震えている。

「もう、大丈夫。なってるよ。宮凪くんと蛍は、もう立派な友達だよ」

 最初は驚いていた宮凪くんが、ぐっと指を絡めて来た。
 強く握られた手の甲に、ぽたりと温かい雫が落ちてくる。何粒も、重なって。

《昔、俺たちを救ってくれた人がいたんだ》

《顔はもうわかんないけど 言われたことだけずっと覚えてる》


《蛍だったんだな》


 噛み締めるように、ゆっくりうなずくと、ふいに引き寄せられた。宮凪くんの胸に抱かれたまま動けない。
 トクトクと鼓動の音だけが聞こえて、生きている証が広がっていく。

 これほど安心する音は、もう一生聞けない気がした。