連れて行かれた屋上は、もう薄暗くなっていた。青い星のように、宮凪くんの手、首や目の周りがキラキラと光っている。

 私に見せたいものがあるらしい。
 ベンチに座ると、さらりと涼しい風が吹いてきた。夏の空気に混じって、繋いだままの手のひらが熱い。

《ありがとう》

「え、なにが?」

《まだちゃんとお礼言ってなかったと思って ミニコンサートのこと》

「そんな、こちらこそ……」

 小さく首を振って、言いかけた言葉を飲み込む。歌の話を出したら、きっと宮凪くんを傷つけてしまう。

「素敵な時間を、ありがとう」

 空が暗闇になって、明かりのほとんどは宮凪くんの光になった。星屑みたいに輝いていて、キレイだ。

《あの瞬間 今までで一番嬉しかった》

《生きてきた中で 一番幸せだった》

 そんな……やめて。お別れみたいなこと、言わないで。涙がこらえられなくなる。

 宮凪くんの頬を、一筋の光が流れていく。
 平然を保っていた唇を、ギュッと噛みしめて。

《俺 あきらめねぇよ》

《コイツに嫌われてるとしても 逆に友達になってやるくらいの気持ちで いつか負かしてやる》

 白い肌に、青い光。白い河原と海ホタルが頭を過って、聞き覚えのあるセリフが入り込んでくる。


『蛍に嫌われてるとしても、いつか友達になってやる』

 幼い男の子が、母親らしき人といる。
 ここは、お祖父ちゃんとの思い出の場所。あの日、海ホタルを見た河原だ。