《今まで姉貴いたんだけど 会った?》

 ううんと首を振って、ベッドに背を向ける。
 今、顔と文字を見たら、泣かない自信がない。もう一度、宮凪くんの声が聞きたいよ。

 うつむきかけた時、Tシャツの裾がクイッと引っ張られた。

《そっか 蛍と行きたいとこあるんだけど 今》

 穏やかな目に、心が押しつぶされそうになりながら。ノートの字を二度見する。

「え、今から? どこに?」

《ちょっと抜け出そう》

 カラカラと点滴スタンドを引きずりながら、隠れるようにエレベーターに乗った。足取りはしっかりしているけど、全体的に少し細くなった気がする。

「ほんとに大丈夫? 勝手に外出して、お医者さんに怒られない? それに、なにかあったら……」

《へーき! 病院内だから》

 スマホ画面を見せながら、宮凪くんが最上階のボタンを押す。どこへ行くつもりなんだろう。

 エレベーターを降りるとき、スタンドが段差につまづいて転びそうになった。とっさに腕を掴んだから、なんとか倒れずに済んだけど。

《ありがと。だっせぇなぁー》

 ハハッと苦笑いして、宮凪くんが一歩踏み出す。頑張って、無理をして笑っているように見えた。

「あ、あの、よかったら、手を……」

 差し出したはいいけど、指先から耳たぶまで真っ赤になって固まってしまう。おせっかいだったら、どうしよう。
 そっと手が触れて、指の隙間に絡まっていく。ギュッと繋がった手に、思わず悲鳴が上がりそうになった。

《今さらナシって言っても、遅いから》

 こんな状況なのに、ドキドキしてる私は不謹慎なのかな。ずっと、今が続けばいいのに……。