引き取り者が来るまで、お互い無言で待っていた。何か話さなければいけないわけじゃないけど、つまらない奴だと思われただろう。

 美容院の時と同じ。会話が盛り上がらないのは私が口下手だからで、他の人と楽しそうにしているのを見ると申し訳ない気持ちになる。

 子猫が無事にもらわれるのを見届けて安心した。震える体をタオルで包まれて、新しい飼い主の腕に守られるようにして帰る姿を、どこか自分と重ねていたのかもしれない。

 お礼を言わなきゃ。この人のおかげで、小さな命が救われたのだから。

 一度帰りかけた足を戻して、彼の前に立つ。通学鞄へ向けている視線がこっちを向いたら、声を出すの。

「その制服って、聖女(せいじょ)だろ?」

 顔が上がると同時に放たれた言葉。準備していた台詞は飲み込まれて、また声が出なくなる。どうしよう。ただ学校を聞かれただけなのに、不安の波が押し寄せる。

 いつだって、聖薇女学院という名だけで偏見を持たれてきた。
 近所の人からは、「蛍ちゃんって意外と優秀なのね」と嫌味を言われ、すれ違ったおじさんには、つま先から頭までじろりと見定められる。

「よく行ってるよな、あんな息苦しそうなとこ。規則とか厳しそうだし、学校サボりたくなんない?」

 表向きばかり見られて、誰にも理解してもらえないと思っていたのに。私じゃなくて、学校を否定されたのは初めて。それが嬉しくて、胸の奥から感情があふれ出てくる。


「……楽しくない」