「……どこへ?」
「ちゃんと、竹田(たけだ)先生の許可は取ってあるよ」

 病室へ入ってきた空さんを見て、宮凪くんは口をあんぐりと開けた。

「姉ちゃん? どういうことだよ」
「行けばわかる」

 点滴をつるしたスタンドを引いて、エレベーターに乗る。黙ったままの宮凪くんは、どこか不貞腐(ふてくさ)れているように見えた。怒っているのかな。

 不安な気持ちで一階へ降りる。玄関ロビーには、手作りの看板とたくさんの折り紙が飾られている。

「……ミニ……コンサート?」

 中央のスペースにはピアノがあって、聖薇(せいら)女学院の吹奏楽部の子たちが楽器を持って座っていた。

「ようこそ、コンサート会場へ」

 まだ状況を把握しきれていない宮凪くんを、目の前の椅子へ誘導する。
 他の患者さんや看護師さんたちも、見に来てくれた。

「みんなで、一生懸命準備したので、聴いてください」

 私の合図で、演奏が始まった。指揮なんて、小学校の合唱でしかしたことはなかった。ましてや、楽器の指揮は初めて。

 真木さんの家へ集まって、今日まで何度も練習した。私のせいで、タイミングがずれてしまうこともいっぱいあって、当たり前だけど簡単じゃない。

 でも、どうしても、宮凪くんに届けたかった。私の手で、勇気と想いを。