紙袋を手に提げて、病室の前で一度呼吸を整える。もう来ないと言ったくせに、こんな物まで用意して、本当に大丈夫なのだろうか。

 ここへ来る直前までは、きっと喜んでくれるはずだと前向きな気持ちだった。いざとなると、不安でしかない。
 私のして来たことは、間違いではなかったのか。ただの自己満足になっているんじゃないかって。

 迷いながらもノックをする。反応がないことに怖くなって、そっとドアを開けた。
 水色のカーテンの向こうには、静かに寝息を立てる懐かしい顔がある。寝ているだけで、よかった。

 ホッとした反面、心臓がどくんと揺れる。首筋や細い手首のあたりに、青い光が出ていた。骨張った指は、もっとがっちりしていたようにも思う。
 それが何を意味するかまでは分からないけど、良い兆しではないだろう。

 起こさないよう紙袋から百羽鶴を出して、飾る場所を探す。点滴のスタンドより、電気の方がいいかな。
 見渡していると、壁にフックのようなものを見つけた。ちょうどいいと、リボンの輪を引っかけようとした時。

「……なに、してんの?」

 急に話しかけられて、驚いた拍子に手からするりと鶴が落ちた。
 慌てて拾いながらベッドを見ると、宮凪くんが目をきょとんとさせている。まるで、この世のものではない物を見たという感じで。

「ごめんなさい。うるさくしちゃったかな」

 フックへかけて、鶴の形を整えた。鮮やかな色が白い病室に映えて、改めて感動する。

「……それ」
「みんなからだよ。宮凪くんのことを応援してる、いろんな人から」

 黙り込む宮凪くんに、ごくりと喉が鳴る。それから背中にひやりとした空気が通って、手汗が滲み出した。
 余計なことをして、と思われたかな。一気に押し寄せる負の思考を、ぐっと押し止める。

「それと、来てほしいところがあるの」