夏休みに入る前日。終業式が始まる前の席で、深呼吸をする。
 一昨日、昨日と二晩悩んで、ある決意をした。
 おもむろに立ち上がり、辺りを見渡す。ほとんどの人が話していて、私に目を向ける人はいない。

「あ、あの……聞いて」

 笑い声にかき消されて、話していることに気付かれていない。もう少し張り上げて、はっきりと。
 今度は加減を見誤って、教室に甲高い声が響いた。何事かと集まる視線に、今更になって怖気付(おじけづ)く。
 落ち着いて、大丈夫。私はもう普通に話せる。

「お願いが……あります。と、友達のために、みんなに、協力してもらいことが、あって」

 心を整えて、胸の内を打ち明ける。やってみなければ見えない世界もあると、宮凪くんが教えてくれたから。

「えっ、春原さんの友達? わたしたち関係なくない? なにを協力するの?」

 すぐ後ろの席の子が、不満そうに私を見上げた。他からも知らない人のために、大事な時間は裂けないと聞こえてくる。
 そもそも、春原さんと仲良くないしね。なんて声も耳に入った。

「……それは、承知の上でお願いしてます。勝手なこと、言ってるのはわかってるけど、力を貸して下さい。私一人では……できないことなんです」

 頭を下げたところで、状況が変わるわけではない。
 だけど、宮凪くんの心に届くような何かを成し遂げたくて、これ以外思いつかなかった。

「その、どんなものでも、何枚でもいいので、折り紙を折ってきてもらえないかと。時間のあるときで、いいので……」

 四方八方からの視線にたじろぎながらも、言い切った。もう一度、頭を低めて。

 シーンと文字で書くように、ひそひそしていた教室が静かになる。関わりたくない時になる音。どんな目で見られているのか想像すると、顔を上げるのが怖い。