一緒に貼られていたのは、住所と県病院の名前。

《海は今ここにいます》

 スマホが手からすり抜けて、床に転がった。最悪な想像が頭を過ぎる。やだやだと首を振りながら、震える指先を胸に当てた。

 ──生きてるって感じする。

 いつかの台詞を思い出して、目頭が熱くなる。座り込んだズボンに、水玉のようなシミがこぼれて広がっていく。

 どうかお願い。宮凪くんから、笑顔を奪わないで下さい。


 黒い車から足早に降りて、待っててとドアを閉める。昨夜はなかなか寝付けなかったけど、意思を固めて、友達のお見舞いへ行くから送ってほしいと母に頼んだ。

 深掘りされたくなくて、車内では全く関係のない話ばかりを切り出し、なんとか場を(しの)いだ。
 ナースステーションで聞いた病室の前に立って、一度深く息を吐く。

 突然来たりして、迷惑じゃないかな。お姉さんに連絡したことを知ったら、気持ち悪がられるんじゃないか。病状が悪化していたら……。

 負の思考ばかりが現れて、さっきまでの意欲はどこかへ飛んでしまった。
 すれ違う人が、怪しむ目で私を見ていく。こんなところで立ち止まっていたら、嫌でも目につくだろう。不審者だと勘違いされたら困る。

 心を決めてノックすると、中から「はい」と声がした。