「そもそも、会ってなかったらしいな」
「恥かかせやがって。ほんと顔だけだな、アイツ。いなくなって正解だわ」
「せっかく拾ってやったのになー。まっ、別にいいけど」

 乾いた笑い声が、じめっとした空気に落とされる。
 今すぐにでも飛び出して、否定したかった。「宮凪くんは、あなたたちよりずっと思いやりがあって、強い人なんだ」って。

 強く握った手のひらを解くことはなかった。その場から逃げるように去って、家へ帰るまで。


 月が満ちる頃。風呂を上がって、勉強をしながらカレンダーへ目を向けた。
 宮凪くんは、どうして突然いなくなったのだろう。手紙も置いていないから、余計に不安になる。
 今度こそ、ほんとに愛想を尽かされてしまったのかな。連絡手段がないから、どうにもならない。

 七月の文字の隣りで子猫が転がっている姿に、ハッとしてSNSを開く。ネコ太のアカウントを探したら、繋がっているかもしれない。

 うる覚えていた飼い主は、すぐ見つかった。かぶり物をした猫のアイコンで、特徴的な名前だったから。

 でも──、
 スクロールする指が止まる。


「……なんで?」

 引き取りのやりとりをしたと思われるアカウントは、すでに消去されていた。

 ──やっと目が覚めた。蛍が来てくれて、俺の居場所はここじゃねぇって吹っ切れた。

 宮凪くんの居場所は、どこにあるんだろう。心を開いてくれていると思っていた。だけど、私のところでもなかったのかな。


 ──蛍だけ、特別な。


 机に突っ伏して、無の時間が過ぎていく。
 濡れた瞼はだんだんと重くなり、完全に閉じた。