「お姉さん、そこどいて下さい」

 後ろから、友達らしき二人ものぞき込む。
 頬を拭いながら、素早く海賊船から降りた。遠くで五時を知らせる音楽が鳴っている。あの時より、随分と日が長くなった。

「なんで泣いてるの? お腹痛いんですか?」

 キリッとした眉の女の子が、少し見上げて言う。
 違うよと答えるより早く、隣の男の子がニヤリとした。

「いいや、これはおそらく失恋だな」
「あんたサイテー。デリカシーなさすぎ」
「うっせぇ! お前こそ、なんも知らねーくせに恋を語るな!」
「はいでた、きもー。それこっちのセリフ」

 繰り広げられる掛け合いに、思わず笑みがこぼれる。
 楽しそうでいいなぁ。私が小学生の時は、こんなふうに言いたいことをあとぐされなく言える友達なんていなかった。

 いつも自信がなくてはっきり話せないから、自然と避けられていって。それは今でも、あまり変わらないけど。

「恥ずかしいからやめよ。笑われちゃった」

 一言も話さなかった子が、頬を染めながら二人の背に隠れている。その仕草が自分と重なって、親近感が湧いた。

「笑ってごめんね。悪い意味じゃなくて、羨ましいなぁって。私、なんでも話せる友達って……いないから」

 宮凪くんとは、仲良くなれたと思っていた。
 病気を打ち明けてくれて、私は心を許し始めていたけど、宮凪くんは違ったのかな。

 文字すら残さないで、また消えてしまった。