七月になってすぐ、学校帰りに少し遠回りをして駅の中にある本屋さんへ立ち寄った。この前読んでいた余命シリーズの新作、しかも限定表紙版はここでしか買えない。

 ドキドキしながら予約をして、なんとなく本を眺めていたら、見覚えのある人影が目に入って思わず隠れた。

 どうして……こんなところにいるの?

 こっそり本棚からのぞいてみる。視線の先にいるのは、同じ小学校だった男子二人組。そのうちの一人は、特に苦手だった。

 ──さっき蛍さんに無視されたんだけど。いつも何言ってるかわかんねぇし。マジでムカつくよな。

 思い出すだけで、怖くて足が震える。
 無視したわけじゃないの。返事をしたけど、聞こえていなくて。もう一度、声をかける勇気が出せなかった。

 今、小学校の同級生にあまり会いたくない。

 逃げるように出口へ向かうけど、運悪く見つかってしまった。


「春原さん?」

 小さくなりながら、ゆっくり振り返る。声は少し低くなっているけど、間違いなくあの子だ。

「やっぱ春原さんじゃん。久しぶりー。元気だった?」

 私のことを嫌っていた男子は、思いの外、軽い感じで声をかけてきた。まるで、小学校での出来事はなかったかのように。

「え、えっと……」

 体がこわばって固まる。声も、学校の時より出ない。

「そっか、春原さんって聖女行ってんのか。なんでそっち受験したの? 太陽中じゃダメだったの?」
「お前、ガッつきすぎ。春原さん引いてるって」
「今何してたの? 本買いに?」
「え、えっと……」

 次々と投げかけられる質問に、頭の中がパニックになる。
 どう答えるか考えるうちに、別の言葉がのしかかって。正解がわからなくなる。

 また、無視したと勘違いされたらどうしよう。

「そういえば、春原さんってさ、小学校のとき……」