腕をぐっと掴まれて、空にこぶしが振り上げられる。
 殴られる……! とっさに顔を背けた瞬間、鈍い音と一緒に何かが吹っ飛んだ。さっきの高校生が倒れている。

「汚ねぇ手で……蛍に触んな」

 鋭い視線で睨みつけると、宮凪くんは私の手を取って足早にその場を去った。数人の高校生は、舌打ちをしながらも、それ以上追いかけては来なかった。

「ちょっと……待って、宮凪、くん」

 もつれそうな足と繋がれた手。息が上がって続かない。もう追われていないと知りながら、宮凪くんの速度は落ちない。

 ひたすら走り続けて、公園へ逃げ込んだ。海賊船の中へ倒れ込んで、二人の荒い息が交差する。

「ああー、久しぶりにこんな走った。つれぇ」

 ハハッと笑いながら、宮凪くんが天を仰ぐ。黒い天井には、貼られたままの《わかった》の文字。それを見つめながら、宮凪くんは小さく息を吐いた。

 体を起こして視線を下ろす。まだ青色の残る首筋が、薄っすら汗ばんでいる。

「……ごめんなさい。あんなこと、しちゃって。怒らせちゃったんじゃ……ないかな」

 私のせいで、宮凪くんは仲間に暴力を振るった。私が余計なことをしたから、私なんかを庇ったために。
 恨まれて復讐でもされたらと考えただけで、背筋がゾッとする。