低速で顔を上げたら「やっぱり春原さんだ」と真木さんのえくぼが浮き出る。
 ちょうど別れる時だったのか、隣にいた人が手を振って一人になった。数秒の沈黙が流れる。とても気まずい。

「こんなとこで会うとか、びっくりだね」

 ぎくしゃくした空気を壊したのは、真木さんのエネルギッシュな声。

「そう……だね」
「買い物?」
「本、見に。真木さん、は?」
「わたしは、友達と下着買いに来てたんだ。来週修学旅行じゃん?」

 よく見ると、ランジェリーショップの紙袋を手に下げている。下着は母親と選ぶのが普通だと思っていたから、真木さんが少し大人に思えた。

「そういえば、春原さんって実行委員やりたかったの?」
「えっ?」
「ほら、合唱コンクールの。手、挙げたそうにしてたから。どっちなのかな~って思ってた」

 だからあの時、じっと見られている感じがしていたのか。

「やる人が他にいなくて、みんな困ってたし。やった方がいいかな……って。でも、勇気出なくて」

 ショルダーバッグの肩ひもをぐっと握りしめながら、緊張を吐く。

 大丈夫。真木さんと、普通に話せてる。

「そうゆうことか~! じゃ、誘わなくてよかった」