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「あー、知ってる! 天王中(てんのうちゅう)の宮凪海でしょ?」

 登校するなり、クラスメイトの会話が耳を刺す。聞き間違いかもと、冷静を装いながら椅子を引いた。

「不良で有名だよね」
「高校生とばっかつるんでて、ほとんど学校も行ってないんでしょ?」
「顔がいいから、女遊びも激しいんだってね」

 口々に出てくる内容は、どれも悪い噂ばかり。聞きたくなくても、周りを気にしない声量は容赦なく鼓膜へ飛び込んでくる。

 同姓同名の別人だ、きっと。

 気に留めないでおこうと、ノートを取り出したところで声を掛けられた。さっきまで、良からぬ噂話を連発していた沢井さんたち三人組。

「春原さんって、宮凪海と知り合いなの?」
「……えっ」
「おととい一緒にいるとこ見ちゃって。ティラミスの店、入ってたよね?」

 スマホで撮った写真を見せられて、言葉に詰まる。たしかに、私と宮凪くんの姿だった。

「付き合ってるの?」
「ち、ちが……付き合ってるわけじゃ、ない」

 あの後、そんな話になることなく、迎えが来て普通に別れた。告白されたわけじゃない。キスの意味も聞けるはずがなく、いつもと同じ朝を迎えた。
 クラスメイトたちは、私の机を囲んで交互に口を開く。

「気をつけた方がいいよ。他にも遊んでる子いるっぽいし」
「何言われたか知らないけど、騙されてるよ。春原さん大人しいから。ねっ」
「そうそう。聖女の制服ってだけで近付く人いるもんね」

 止まることなく、卑劣(ひれつ)な台詞が浴びせられる。膝の上で手のひらをぐっと握りながら、唇を小さく震わせた。

「そ、そんなこと……ないと思う。ぜったいないよ」