「宮凪くん、こっちはくらげだって!」

 はしゃぎ過ぎた手が、ぐっと後ろへ引かれた。そのまま絡まる指に、呼吸のタイミングがわからなくなる。

「もう少し、ゆっくり見よう」
「そ、そうだね。ごめんね、私ばっかり、楽しんじゃって」

 ドキドキと波打つ音を誤魔化すように、目の前の水槽へ目を向けた。どれも息を呑むほど美しいのに、繋がれた右手にしか意識がいかない。

 腕がぴったり触れたまま、宮凪くんが隣に立つ。緊張で動けない。

 黄色や青に発光するくらげを眺めながら、ふと思う。


 ──このまま、時が止まってしまえばいいのに。


「なんか、すげぇドキドキしない? 俺だけ?」

 宮凪くんの目は、前を向いていた。きらきらと波打つ水が反射して、私たちも水槽の中にいるみたいだ。

「……私も」

 すごくドキドキしてる。
 この先訪れるはずの運気を、全て使ってしまっているのではないかと思うほど、心は幸福に満ちている。

「生きてるって感じする」

 心臓に手を当てて、宮凪くんは目を閉じた。
 胸の奥が締め付けられるような切なさが込み上げてくる。

 深い意味などないかもしれないけど、言葉のひとつひとつが突き刺さる。よくない方向へ捉えてしまう。