──心を動かされたオススメの本ってない?

 全て見透かされている気がした。

 暗くて堕ちていくような物語に惹かれると言ったら、引かれるかもしれない。薦めて宮凪くんの好みに合わなかったら……そんなことばかり考えて選んでいた。

「蛍が見てる世界を、俺も経験してみたいなーって。そう思うの、変?」

 ううんと首を振って、本を差し出す。

「私は、すっごく好き。素敵な話だから、世界観に浸ってみて」
「そうする」

 初めてだった。私の見る世界を経験してみたいだなんて、告白でもされた気分で、今になって気恥ずかしくなる。

 ショッピングモールをふらふらしていたら、時刻は十六時を過ぎていた。
 電車に乗って、港の方まで行くことになった。あまり訪れたことのない場所。ここに小さな水族館があるらしい。

 入場ゲートのお姉さんに、宮凪くんがなにか尋ねている。少し残念そうにチケットを買っていたから、どうしたのか聞いてみると。

「発光実験は予約いるんだって。夜の部チケットは買えたけど、これじゃ意味ねぇ」
「ナイトアクアリウムのこと?」
「うん、海ほたるが見れるはずだったんだ。あー、予定狂った。だっせぇ」

 その場にしゃがみ込んで、この上なくショックを受けている。

 どうやら私のために、下調べをしてくれていたようだ。詰めが甘かったと、テンションの低い宮凪くんと館内へ入った。

 思いの外お客さんは少なくて、私たちを含めて五組ほど。ライトアップされた魚は神秘的で、白昼とは違う雰囲気に胸が躍った。
 知っている景色が、まるで違うものに変身したみたい。