「やっぱ体調悪い?」
「ち、がうの……お腹が」

 被せるようにぐぅぅと低い音が響いたタイミングで、真っ赤な苺のティラミスが運ばれて来た。

 顔を上げられないでいると、向い合わせからククッと笑いを堪える声がしてくる。

「そんな腹減ってたんだ」
「……笑わないでよ」

 意味のない手がお腹を押さえたまま、力なく語尾は消えていく。
 まだ頬を緩めているから、こっちは頬が膨らみそうになる。あの可愛げのない音を、宮凪くんの記憶から消去したいよ。

「俺の抹茶も食っていいよ」
「……それだと、協力どころか、私が満足して終わっちゃう」
「うーん、すっげぇ甘いのが好きってわけじゃねぇし。少し食えたら、それでいいかな」
「えっ、スイーツが目的じゃなかったの?」
「それは、こんくらいかな」

 指で作られたコの字が想像以上に小さくて、私は首をかしげた。

「じゃあ、宮凪くんのやりたいことって……なに?」

「えー?」と腕を組んで、宮凪くんがほくそ笑む。手招きされて少し耳を寄せると、距離感もないほど近くに綺麗な顔が飛び込んできた。


「──デート」