「……蛍、聞いてた?」

 狭い海賊船の中で隣り合わせに座っていたところ、呼ばれて意識が戻る。
 振り向くのとほぼ同じくらいに、頬がふにゃっとつままれた。想像以上に変な声が出て、恥ずかしさのあまり顔を伏せる。

 絶対に気持ち悪いって思われた。もう一生上げられないよ。

「ごめん、そんなびっくりした? ボケっとしてっから、これなら気付くかと思って」

 なんでもないような声色が降ってくる。変な反応をしたことも、自分自身の体のことも全部気にしていないみたいな感じで、その明るさに救われた。

 学校での宮凪くんは、どんな人なんだろう。友達が多くて、きっとクラスの人気者に違いない。
 もしも私が同じ学校だったら、こうした手紙の出会いじゃなくても、仲良くしてくれたのかな。

 手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、不安はいつも隣にいて離れてくれない。


「で、さっきの話。今週の土曜、一日借りれない?」

「……なに、を?」

 おもむろに上げた首を傾げた。
 薄暗い景色の中、きらりとピアスが光って、形のいい唇が小さく動く。

「──蛍の時間」