急に鎖が引っ張られて、ガチャンとぶつかる音が鳴った。

「まだ頑張れてねぇじゃん。蛍も、俺も。そうだろ?」

 すぐ目の前にある瞳に、大きく心臓が動く。交わるはずのない線が重なっている。
 浮きそうなつま先に、ぐっと力を入れた。


「……うん」

 やっぱり、宮凪くんはすごい人だ。一瞬にして、人の心を掴んでしまうのだから。

 帰りの方向は反対のはずだけど、私の家へ続く道を二人で歩いている。いつもより遅くなってしまったからと、宮凪くんが途中まで送ってくれると言う。
 悪いからと、何度も断りを入れたのに、いいからと押し通されてしまった。

 こうして並んで帰っていると、とても不思議な気持ちになる。学校は違うけど、友達と帰っているみたいで、少しそわそわする。

「蛍は、何かやりたいことないの? 死ぬまでにフォアグラ食いたいとか、映画作ってみたいとか」
「……いきなり聞かれても、すぐに出てこないよ」

 考えたこともなかった。将来何をしたいとか、漠然と想像したことはあったけど、死ぬまでにしておきたいことなんて、あるようで思いつかない。

「行きたい国とか、見てみたいものとかさ」

 宮凪くんの落ち着いた声が、波の音に聞こえた。
 頭に浮かんだのは、幼稚園の頃にお祖父(じい)ちゃんと見た光景。水面が青く輝いて、すくった手のひらは宝石箱をひっくり返したようだった。


「──海ホタル」