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「あと一人、誰かやってくんないかなぁ?」

 教卓の前で、腕組みをした三浦先生が頭を抱えた。みんな視線を合わせないように、しらっとした顔をしている。
 再来週に控えた合唱コンクールのオーディションへ向けて、急遽、実行委員を決めることになった。クラスのまとまりがないことに、先生が焦りを感じているらしい。

 すでに立候補で決まった真木さんが、黒板の前で教室を見渡している。
 仲良くしている子たちも、面倒だからとやりたくない素振り。私もやりたいわけではないけど、先生も困っているし、真木さんと話す機会が増える。
 気持ちでは手を上げようと思うのに、その一歩が踏み込めない。

 真木さんと目が合った。他の人が前を見ていないからなのか、じっとこっちへ視線を向けている。
 小さく唇が動いて、何か問いかけているみたい。

 ……やる?

 挙げたそうな手に気付いてか、真木さんはそう言っていた。

「よーし。今日は五月七日だから、出席番号十二番に任せる」
「え~、わたし? 十二全然関係ないし!」
「足し算よ、足し算」
「意味不明。サイアクなんですけど~」

 私の後ろの席で、真木さんと仲良くしている子が嘆くような声を上げた。自由時間が減ると、ぶつぶつ文句を吐いている。

 今、代わると言えば、まだ間に合う。振り向いて、声を掛ければ──。


 少しだけ傾けた体は、通り過ぎていく彼女と一緒に前を向いた。

 結局、なにも出来なかった。変われないまま、一日が過ぎていく。