「蛍ってさ、頭良いわりにどんくさいよな」

 雨がしとしと泣き止まない中、公園の海賊船で雨宿りをしていたら、紺色の傘から顔が覗いた。くくっと笑いをこらえているのは、宮凪くんだ。

 泥跳ねした白靴下を隠して、少し奥へ距離をとる。
 落ち着かないでいると、濡れた傘を置いた宮凪くんが隣へ入り込んだ。
 肩が触れて、頬が熱くなる。茜色の空が隠してくれてよかった。

「ゴールデンウィーク中は、来れないんじゃなかった?」
「……宮凪くんこそ」
「俺は特に予定ないし。一人で暇だったから」

 お家の人は誰もいないのかな。仕事なのかな。頭をよぎった疑問はすぐに流して、また口をピタリと閉じる。
 余計なことは考えない。誰にでも家庭の事情ってものがあるのだから、下手に首を突っ込まない方がいい。予測もしないところで、地雷を踏むことだってあるのだ。

「手紙だと話してくれるのに、会うと大人しいのな」
「……それ、言わないでよ」
「前書いてた学校の人とどうなった? 話しかけれた?」

 真木さんのことだ。少し前に、明るくて誰とでも仲良くなれる子がいるけど、なかなか輪に入れないと相談したことがあった。
 男の子で、しかも会うことになるなら話さなかったのに。

「……まだ、勇気が出なくて」
「ふーん。俺にはよく分かんねーけど、そういうもんなの?」

 スマホをいじりながら、まるで興味がないみたいな返事。正反対の性格の宮凪くんに、この気持ちは分からないよ。