「んーと、春原さん?」

 目の先に、三浦先生の足が映った。視線を上げると同じくらいで、少し突き出た唇が素早く動く。

「ちゃんと歌ってる? 腹の底から声を出す感じよ。こう、天井を突き破る感じで。見てる方にはわかるからね」

 チクリと釘を刺された。三浦先生にはお見通しだ。私が口パクで声を出していなかったこと。

 隣の子に白い目を向けられた。真面目にやってよ、と言いたげな視線とため息が、さらに私の罪を重くする。申し訳ないと仕方ないが交互にやって来て、息が苦しくなった。

「さあ、もう一度」と、仕切り直しの手が鳴る。
 三浦先生は、親切だけれどどこか苦手だ。
 いつもフルパワーでテンションが高いのと、音楽には目がないところ。

 今は来月五月半ばにある合唱コンクールのオーディションへ向けて、気持ちが高まっているから、なおさらだ。